「unframed」

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世界を動かし始めたJames Blakeの新曲

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シェアされてから約1週間あまり、James Blakeの新曲「If The Car Beside You Moves Ahead」のリピート再生が止められない。

彼の音楽における悲壮感や哀愁、名だたるアーティストとのコラボレーションを経ても決して揺るがないその活動スタンスには毎回驚かされる。それでいて今回の新曲では、2018年における自己の進化も加味され、まさにこの2年間の活動を集約した彼の新たなタームを告げるに相応しい作品だ。

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同楽曲が公開されるまでの過程を簡単に振り返ってみると、最新アルバム『The Colour In Anything』(2016)リリース後は同作を引っ提げてのワールドツアーを開催。日本にも同年に"FUJI ROCK FESTIVAL'16"に出演。さらに昨年には東京国際フォーラムにて日本にて最大規模の単独公演も成功させている。

楽曲としては、James Blake単独名義の新曲は今作まで発表されなかったが、『The Colour In Anything』からのシングルカットとしてVince Staplesをフィーチャーした「Timeless」をリリース。グライムを踏襲したエフェクト部に差し込まれるVinceのライムは、すでに頭一つ飛び抜けていた彼のスキルをジャンルを超えた先に届ける一つのきっかけになったと言えるだろう(現に2017年にはGorillazのゲストヴォーカルに迎え入れられたほか、自身としても老舗Def Jamより2ndアルバム『Big Fish Theory 』を発表している)。

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自身のツアーの合間にはデビュー当時から共にポストダブステップの両翼としてクロスオーバーしてきたMount Kimbieの新作に参加。アルバム『Love What Survives』自身のマルチな引き出しを開け閉めするのではなく、あくまでMount Kimbieが用意したステージで艶めくボーカリストとしての役割に徹していた「We Go Home Together」も必聴の一曲だ。

 

ボーカリスト、もしくはトラックメイカーとしての役回りにおける彼のエンタメ性の出し所は については、パパラッチに追われるBeyoncéらのようなスターとの仕事による影響もあるだろう。ちなみにトラックメイカー側の彼のエゴイズムの抑制と放出は、先ごろグラミー賞を受賞したKendrick Lamarの最新作『DAMN.』に収められている「ELEMENT.」にて思う存分浴びることができる。

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常に時代の矜持たちからその声と発想を求められる存在のJames Blake。個人的に彼がなぜここまで「求められる」のかを考えた時、彼自身、ポリティカルな発言や、またそれらを想起させるようなサウンドに"自身"を投影させないことが挙げられると思う。

彼自身はイギリス人だが、現在のトランプ政権や自身を取り巻く生活で必要最低限の政治的意見ももちろん持ち合わせているだろう。ただ、彼にはKendrick Lamarのように崇高なリリシズムなどないし、親友Chance The Rapperのようにレペゼンを国規模のアクションで行う実行力も求めららていない。だからこそ、純粋無垢かつミステリアスな必要色として、そのアーティストの求めるサウンドカラーをコーティングする存在として重宝されるのではないだろうか。

新曲「If The Car Beside You Moves Ahead」が発表される少し前、Kendrick Lamarと彼の所属クルーTDEがプロデュースを手掛けるマーベル映画『ブラックパンサー』のサウンドトラックに参加していることも忘れないでおきたい。Jay RockFuture、そしてKendrickらと共に「King's Dead」にて短いながらエフェクトの効かせたヴォーカルを披露している。エンターテイメント性の高い作品に彼が携わるのも珍しいが、元々音像豊かなアンビエンスを醸し出すサウンドだけに、今後何らかの映画の音楽監修にトライしている姿も見てみたいものだ。

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番外編、いや実は彼のバックボーンが最も露わになったのが、昨年のクリスマスイブに公開されたDon McLean「Vincent」のカバーだ。今から46年前、1972年に発表された原曲はフィークの定番曲として世界的に大ヒットしたが、ゴッホの絵画(『星月夜』)に影響された曲である同曲をグランドピアノの弾き語りで歌い上げるJames Blakeは、オリジナル曲とは違う、原曲の描く物語に没入する姿が何とも印象的だ。

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新曲「If The Car Beside You Moves Ahead」 が次なる彼のアルバムに収録されるかはわからないが、少なくともそのサウンドや映像を見る限り、間違いなくこれまでとは違う、ネオンライトを突き進むスポーツカーの如き疾走感で走り出したJames Blakeが存在している。すでに"ポストダブステップ"なんて謳い文句はきれいさっぱり消去されたが、ヒップホップ、アンビエント、チルウェイブ、ダークウェブなど、特定のシーンに居座ることなく回遊する彼が、今どこに向かっているのか。それはこれから徐々に明らかになっていくだだろう。

2018年も、またJames Blakeが世界を動かしそうだ。 

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